グングニル



「やっと見つけた! 宝の地図だよ! これ!!」


少し、昔話でもしようか。
何だ? そんな顔するなよ。柄じゃないって? うるせぇな、たまにはそんな夜もいいと思わないか?

俺が以前、ある小さな村に立ち寄った時のことだ。東にある、長閑なところだったよ。
いい顔をしなかった奴もいるにはいたが、俺達にも良くしてくれたしな。
で、その村にはひとり、ガキがいてな。あいつはあいつなりに、村での生活には退屈してたんだろう。
いつも俺達のそばにくっついてて、話を聞かせろだの世界のことを教えろだの、
揚句の果てには仲間に入れろ、連れていけ〜〜ときたもんだ。
無鉄砲な上に見境ないし、おまけに俺達の宝は喰っちまうし……まぁこれはいいか。
とにかくうるさい奴だったが………そうだな、退屈はしなかったよ…。
俺達がそこにとどまるようになってから暫く経ったある日、そいつがいつものように俺達のところにやって来た。
だが、その日のあいつは妙に嬉しそうでな……。聞けば「宝の地図を見つけた!」んだとかで、実際、あいつはそれを持っていた。
おおかた、海岸に流れ着いたのを拾ったか何かしたんだろう。
今でもそうだが、沈没船から流れ出した正真正銘の財宝の在りかを記した地図から、
どこかの夢と想像力に溢れた奴が全くのデタラメを描いたものまで、そんな風に海を漂ってる「宝の地図」ってのは結構あるものなんだ。
……ただなぁ………そもそもそんな地図以前に、地図に描かれるような宝ってものが少ないからな……。
大概はどうしようもない偽物とか、そんなのなんだよな。
……ちょっと話が逸れたか。まぁこの先は想像できるだろ。
そいつが勇んで持ってきたその地図も、やっぱりいかにも胡散臭いシロモノだった訳だ。
俺もじっくりと拝見したが、仮にも「地図」と銘打たれている割に表記は海図と地図を微妙に混ぜ合わせたようなものだったし、
肝心の中身だって、何処とも知れない島の中央に、ぞんざいな赤のクロスマークだけだった。
方位は辛うじて記してあったが縮尺はなかったから、そもそもあれが島だったのか大陸だったのか、それも未だに謎だな……。
要するに、うちの航海士に見せるまでもない、ある種笑いが込み上げてくるような地図だった。
俺は勿論、その場でそいつに教えてやった。
おい、残念だがコレはマガイモノだよ。だいたいお前、この地図がどこを示してるのか分からんだろう? ってな。
酒の肴にあいつとそんなやりとりをするのは、日常茶飯時のことだったしな。
さて、あいつは何て答えたと思う? 泣いた? いや怒った? 俺と一緒に笑い飛ばしたってのもアリかもな。
だがあいつはどこか魅せられたような表情そのままで、こう言った。今でもよく覚えてるよ……
――そんなの、行ってみなきゃ分からないだろ? きっと見つかるさ!
まぁ年相応と言えば年相応の答えだったんじゃないか?
でも俺はそいつをこき下ろす気もなくなっちまってな……。その地図、返してやったよ。
つい最近、そのガキの………いや、ガキだった奴の話を聞いた。
どうやら約束通り、俺と同じ道を選んだらしいな……。随分と暴れてるとか何とか、全く、将来が楽しみだよ。

それだけかって? そう急かすなよ……。
ところでお前、本物の宝の地図ってのは普通、同じものは一枚しかないもんだとか思ってたりしないか?
ところがそうでもないんだな、これが。
ある程度の技術で同じものはつくれるし、ようやく宝を見つけたと思ったら中身は空だった、なんてこともある。
先客がいましたってことだな。そう、宝の地図を見つけても、そこに行ってみるまではその地図の価値は解らない訳だ。
あいつの言ったこと、あながちガキの戯言とも言えないのかもな……。
じゃあさ、宝なんて地図があってもその価値が分からないなら、実のところ「宝」って何なんだろうな?
富とか権力とか、そういうものか? お前、どう思う?

俺はな、宝を欲しいと思うこと、これが何よりも貴重な財宝だと思う。
それがどんなものなのかは分からない。人によって違うカタチをしてるのかもしれないな。
だが、そのカタチのことを言うのなら………、あいつのその想いは、長大な槍のようなカタチだった気がするよ。
グングニルってやつだな。カミサマが掲げる、最強の武器だ。
ひとたび投げればひとりでに立ち塞がるものを貫いて、勝手に戻ってくるとかいう話を聞いたことがある……。
そりゃ勿論、お伽話の世界の話だよ。だがあいつの目、夢だけを見つめる瞳は、……カミサマをも越えそうな感じがしたな…。
そういう瞳の持ち主を嫌う奴らだって居る。
自分が持っていないモノを他人が持ってるってのは、誰にだって気分のいいものじゃないしな……。
でもな、そんな奴らもいつかきっと手を振る筈さ。その……強い瞳を持ったあいつに向かってな………。

これで俺の昔話は終わりだ。付き合わせて悪かったな……。さぁ、明日も早い、寝るとしようか……。
何だ? 何でこんな話をしたのかって?
………それは……その…何かお前が…元気なさそうだったし…………まぁいいだろそんな理由なんか! じゃあな、また明日!!

 

 


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